Zwick Roell 社のナノインデンター製品はドイツケムニッツ工科大学からの Dr. Thomas Chudoba により2003年に設立された、 ASMEC GmbH社を起源としております。
Dr.Chudoba はナノインデンテーションを使用した材料力学分野において著名な研究者で、ナノインデンテーションに関する論文を26以上執筆し、論文の一部はPart 4 of the international indentation standard ISO 14577 (test method for coatings) にも採用されています。
測定原理
ビッカース硬度計などによる薄膜の硬さ測定は、塑性変形によって生じた圧痕のサイズを光学顕微鏡で測定する方法の為、顕微鏡精度や深さの制限などの問題をかかえていました。一方で近年のエレクトロニクス部品の厚さはnmオーダーとなり、このような従来法では対応できなくなりました。
これに対しナノインデンテーションは押し込み荷重をuNオーダーで制御し、圧子の押し込み深さをnmの精度で測定する方法です。押し込み荷重F(Force)に対する押し込み深さhの関数をXYプロットし、荷重の印加から除加までの全過程を連続的に測定する事により、硬度、ヤング率を算出します。この為圧痕サイズの誤認のような個人誤差の問題が発生しないメリットがあります。
ナノインデンテーション(垂直荷重)
下図に示すように、荷重(Force)を加えていくにしたがって(Y軸)、試料表面にくぼみができ、X軸で表されるように押し込み深さ(Depth)が変わります(曲線A)。
一定荷重に達した後、除荷していくと弾性変形量の寄与により曲線Bのようになります。試料が完全弾性体の場合、AとBは一致し、完全塑性変形の場合BはX軸に垂直になります。hmax-hoが弾性変形に相当します。
(1)硬度
硬度:荷重をくぼみ面積で割った値
押し込み深さ(hc)と面積(Ac)の関係
(2)ヤング率
ヤング率:弾性領域における曲線の勾配
Er:試料(Es)と圧子材質(Ei、ダイヤモンド)の複合ヤング率
S:荷重と変位は比例関係にあり、Sは比例係数S=dF/dh
Er、Es、Eiには次の関係があります。
ダイヤモンド圧子の場合Eiは1000GPa前後、νiは0.1以下と報告されています。
LFU(ラテラルフォースユニット、水平荷重)
荷重一横変異(水平荷重)
1.水平荷重の印加によるスクラッチ
2.リバーススクラッチ
3.スクラッチ痕の上を移動
コーティングしたガラスのマイクロスクラッチテスト。0mN (左) から35mN (右)に荷重を増加させています。
垂直 / 水平両方向における高分解能により、破断点を検出する事ができます。又、表面の不均一性による影響はスクラッチ距離を短くする事で低減する事ができます。
製品特徴
ラテラルフォースユニット(LFU)
多くの製品の表面は、外部から力学的刺激を受ける事を考慮し、PVD 、CVD 、ALOなどの製膜方法で保護膜を形成しています。保護膜には十分な物理強度が要求され、材料力学特性の評価が必要となります。
このような評価にはナノインデンテーション試験が行われています。通常の測定原理はノーマルフオース(垂直荷重)により硬度やヤング率を算出しますが、この方法だけでは摩擦磨耗、密着強度、膜の破壊が発生する臨界荷重などの評価ができず、耐久性に関する情報が得られません。
このような問題を解決する為、ドイツZwick Roell社はラテラルフォースユニット(LFU:Lateral Force Unit)を開発しました。Zwick Roell社のナノインデンターZHN(Universal Nanomechanical Testing System) はノーマルフォース(垂直荷重)に加え、ラテラルフオース(水平荷重)での測定が可能な為、より多くの材料力学特性の情報を得る事ができます。
ノーマルフォースユニットとラテラルフォースユニットの構造
ノーマルフォースユニット
ピエゾによる垂直荷重の発生部位と、センサーによる測定部位が完全に切り離されており、正確な測定を行う事ができます。
又、頑丈なつくりになっておりオーバーロードでもセンサーが壊れる事はありません。
ラテラルフォースユニットとオプションのAFMを組み込んだ装置全体図
ラテラルフォースユニットも又、ピエゾによる水平荷重の発生部位と、センサーによる測定部位が完全に切り離された構造になっています。
サーマルドリフトとゼロポイントの補正
ナノインデンテーションの測定精度向上にはサーマルドリフトとゼロポイントの補正が必須となります。
Zwick Roell社はヨーロピアンプロジェクトで証明されたソフィステイケイトされた補正ソフトを開発しています。
ノイズレベル
レゾリューションの値はADコンバーターのビット数と測定レンジから算出される理論上の値である事が多く、純粋な比較にならない事が多々あります。
このためSN比が実質的に重要になってきます。ZHNのSN比は非常に高く’106’です。下図は最大荷重2000mNを400秒以上維持したものです。
平均は2000.00lmNで標準偏差は211Nです。
最大荷重2000mNを400秒以上維持したときの加重シグナルのノイズ
サイクリック測定
基板上の薄膜コーティングの場合、引張試験など適用できないため降伏力の正確な測定は非常に難しくなります。
しかしながら、サイクリック測定を行う事によって測定が可能になります。
サイクリック測定は、薄膜に対して球面の圧子を用い、押し込みの荷重を増加させていくサイクル(Load)と、その最大荷重の30%まで荷重を減少させるサイクル(Unload)を交互に行い、試料の塑性変形が始まった場合は、下図のようにLoadとUnloadの曲線が離れはじめる事から降伏点を求める方法です。
2.1μm厚のDLCをスチールにコーティングした試料に対するサイクリック測定の例。
荷重が約6mNでLoad – Unload曲線が離れ始めます。UnloadはLoadの30%の荷重なので20mNが降伏点となります。
T.Chudoba et al./ Surface and Coatings Technology 154(2002)140-151
モデル
ZHN(Universal Nanomechanical Testing System)
1台でナノインデンテーション、ナノスクラッチ、磨耗テストなど幅広い応用が可能なナノメカニカルテスターです。
オプション
SEM用ナノインデンター
SEM(走査型電子顕微鏡)の真空中で試料を観察しながら使用できるナノインデンターです。
ラテラルフォースユニット
ラテラルフォースユニットはナノスケールのレゾリューションで水平荷重を発生させ、ナノスクラッチや摩耗試験を可能にします。
AFMオプション
Nanosurf社製のAFM(原子間力顕微鏡)をZHNにインテグレートする事ができます。
除震ケース
サーマルドリフト、電磁波、ノイズによる振動を低減します。
引張試験モジュール
圧子
どのような形状の圧子でもカスタムメイドで製作いたします。
又、どのような圧子でもインデンターに取付ける事ができます。
標準圧子(半径1~200μm)
・バーコビッチ圧子
・ビッカース圧子
・四角形圧子
・球面圧子
エラスティカ
コーティング膜評価用シュミュレーションソフトウェアです。
金属、ハードコーティング、セラミック、ポリマー、半導体など多種多様な材質の物理強度のデータベースが利用可能です。
パラメーターを入力する事により、どのくらいの荷重をかけられるか、どのくらいの膜厚が最低限必要か等シュミュレーションすることができます。
ソフトウェア
インターフェイス
ステージ、サンプル、圧子の位置が表示されます。
ステージの制御はソフトウェアで行う事ができます。又、ステージの映像に切替える事ができます。
設定
サンプル上の測定箇所の設定回数には制限がなく、測定位置を結ぶ事により線状、柱状又は網目状などになるようなプログラムが可能です。又、各測定位置において異なるアプリケーションの測定を実行する事ができます。
レシピ
様々な実験方法のレシピがプログラムされており、選択するだけで実験を行う事ができます。
アプリケーション
- コーティング膜の評価(軟らかいポリマー状のものからDLC等の硬質材料まで)
- ガラス基板を下地とする保護皮膜の評価
- ゾルゲルコーティング膜の評価
- ファイバーや金属細線などのマイクロ引張強度試験
- 合金におけるマトリクス効果の解析
- 水平荷重による摩擦/磨耗のメカニズムの解析
- ダイボンディング接着強度の評価
- FPO用スペーサーの強度評価
マイクロスクラッチテスト
コーティングしたガラスのマイクロスクラッチテスト。0 mN (左) から35 mN (右)に荷重を増加させています。
垂直/水平両方向における高分解能により、破断点を検出する事ができます。
又、表面の不均一性による影響はスクラッチ距離を短くする事で低減する事ができます。
疲労試験(垂直荷重)
周波数0.5Hzで垂直荷重を40mNから50mNに200回変えてコーティングに影響をあたえるか試験を行った。
結果コーティングに影響は無かった。
疲労試験(水平荷重)
水平荷重を1Hzで200回試料に印加した時の応力、ひずみ、時間の関係。
マイクロ摩耗試験
[試料]
ガラスに5μmのアルミをコーティング
[圧子]
Φ6 μmダイヤモンド球面圧子
表面粗さのスキャニング
仕 様
ZHN
最大試験荷重(垂直) | ±2N |
---|---|
荷重分解能(デジタル) | ≦0.02µN |
重分解能(ノイズ) | ≦6µN |
最大押し込み深さ(垂直) | ±200µN |
距離分解能(デジタル) | ≦0.002nm |
距離分解能(ノイズ) | ≦0.3nm |
最大スクラッチ距離 | ±75µm |
タンデム型顕微鏡(カメラX2) 画素分解能 |
1280×1024pixel |
対物レンズ | 50倍 |
作動距離 | 0.38mm/10.8mm |
光源 | グリーンLED 1W |
光学倍率(23′ スクリーン上) | ① 1000倍②3350倍 視野324×259µ㎡ |
画素分解能(低/高) | 254nm/76nm |
Xステージ移動範囲 | 200mm 分解能50nm |
Yステージ移動範囲 | 100mm 分解能50nm |
Zステージ移動範囲 | 70mm 分解能10nm |
最大試料寸法(X×Y×Z) | 80×80×60mm |
重量 | 105kg |
外寸(W×H×D) | 640×790×390mm |
SEM用ナノインデンター
最大試験荷重(垂直) | ±200mN |
---|---|
荷重分解能(デジタル) | ≦0.02µN |
荷重分解能(ノイズ) | ≦0.5µN |
最大押し込み深さ(垂直) | ±200µN@20mN |