燃料電池・太陽電池~製造に適した塗布装置とは~

近年、カーボンニュートラルや環境問題への対応として、燃料電池および太陽電池が注目されています。これらの技術は、一部では実用化も進んでいますが、さらなる性能向上や製造コスト削減に向けて、引き続き研究開発が行われています。
中でも、燃料電池におけるMEA製造や触媒塗布、インターコネクタ塗布。太陽電池における、電子輸送層・ホール輸送層の製造などは、研究開発においてコアとなる製造工程です。
これらの製造工程では、「塗布」を行うための様々な装置が用いられます。
中でも注目のソリューションとして、超音波スプレーとインクジェットがあります。
ここでは、これら両方のデファクトスタンダードをご提供している弊社の視点から、それぞれの強みや適した用途を詳しくご紹介いたします。
超音波スプレーとインクジェットの比較
まずは、超音波スプレーとインクジェットについて、それぞれの一般的な特長を解説いたします。
超音波スプレー
超音波スプレーは、超音波振動により形成した液滴を噴射し、塗布を行います。
形成される液滴は、その一つ一つが非常に小さく、液滴サイズの大きさも均一です。
そのため、超音波スプレーによる塗布は、非常に薄く、膜厚が均一であることが特長です。
インクジェット
インクジェットは、加圧や熱、または電気的な力によって微細な液滴をノズルから噴射し、塗布を行います。
インクジェット技術では、ピコリットル単位の微小な液滴を、精密に噴射します。そのため、微細なパターン形成が可能です。
また、量産時における生産性が高いことも特長の一つです。
超音波スプレーとインクジェットには、それぞれ異なる利点があります。
燃料電池および太陽電池の製造において、これらの強みを最大化して活かすために、どちらも研究・検証が進められています。
また、より製造に適した方法を模索するため、超音波スプレーとインクジェット、両方の技術開発に取り組まれているお客様もいらっしゃることと思います。
燃料電池の製造
燃料電池は、水素を燃料に酸素と化学反応させ、電気を発生させる装置です。
ここでは燃料電池を構成する部材の中でも、「塗布」により製造される要素について、超音波スプレーとインクジェット、それぞれの強みや適している理由をご紹介いたします。
触媒の塗布
燃料電池にはいくつかの種類が存在し、種類によって使用する触媒材料が異なります。
超音波スプレーの強み
超音波スプレーが強みを持つ触媒の条件に、高価な貴金属触媒が使用されていることが挙げられます。
超音波スプレーの塗膜は非常に薄く均一であるため、高価な材料でも消費量をできるだけ抑え、製造コストを削減することが期待されます。
他にも、ある触媒が持つ特殊な性質として「材料の沈殿しやすさ」があります。
沈殿しやすい材料を、そのまま噴射し塗布を行うと、例え厚みが均一でも材料の濃度のばらつきが生じてしまいます。それにより、燃料電池の発電性能が低下する恐れがあります。
そこで、超音波スプレーは材料に超音波振動を加えながら塗布を行うことで、材料を撹拌し沈殿を防ぐことが可能です。これは超音波スプレーならではの強みといえます。
インクジェットの強み
燃料電池の研究開発において、重視されるテーマの一つは「低コスト化」です。
インクジェット技術は、高価な触媒材料を薄く塗布することに加え、量産時における生産性の高さから製造コストの抑制効果が期待されています。
他には、燃料電池の種類の中でも、触媒層に傾斜構造を付与することで発電効率を高めることができるものがあります。
インクジェット技術は、塗布層のパターン形成を得意とするため、触媒層に傾斜構造を実現し、性能の高い燃料電池を製造できる可能性があります。
電極の製造
インクジェットは、燃料電池の電極の製造にも活用されています。
特に、近年注目の次世代型燃料電池「PCFC」の電極製造において、その強みを発揮しています。
PCFCは新しい燃料電池ということもあり、電極に使用する材料はまだ検討が続いています。
その中でも現状、インクジェットノズルからの吐出が良好であることが確認されており、今後の展開でも活用が期待されています。
また、異なる種類の材料でできた層を重ねて電極を製造する方法の研究が、併せて進められています。
その際、材料ごとの電極層に傾斜構造を付与することで、高性能なコンポジット電極を製造できる可能性があります。
先ほどの触媒層同様に、塗布層の厚みの傾斜構造付与には、インクジェット技術のパターン形成における強みが活かされます。
インターコネクタのコーティング
燃料電池のセルをスタック化する際に重要な要素であるインターコネクタは、劣化防止などの目的でコーティング層を設けることがあります。
超音波スプレーの強み
インターコネクタは、種類にもよりますが複雑な形状をしていることがあります。
超音波スプレーで形成される液滴は非常に小さく、大きさが均一なため、インターコネクタの各部位にしっかりと密着し、質の高いコーティング層の形成が期待されています。
またコーティング層の性能は、インターコネクタの耐久性にも関わる重要な要素です。
超音波スプレーによる塗布層は、性質の均一さも高いため、インターコネクタの耐久性向上にも貢献できる可能性があります。
インクジェットの強み
インクジェット技術ではパターン形成の技術により、複雑な形状をしたインターコネクタへの塗布も実現できる可能性があります。
また、インクジェットによるコーティング層の形成は量産性が高く、実用化に向けた製造コストの抑制が期待されています。
太陽電池の製造
太陽電池は、光エネルギーを受けて化学反応を起こすことで、電気を発生させる装置です。
ここでは近年注目のペロブスカイト太陽電池の製造について、「塗布」による製造方法を、超音波スプレーとインクジェット、それぞれの強みや適している理由をご紹介いたします。
ペロブスカイト層の製造
ペロブスカイト太陽電池の発電のコアとなるペロブスカイト層の製造には、インクジェットの活用が有効とされています。
ペロブスカイト太陽電池は、発電量の多さと製造コストの低さが特長ですが、大面積化の難しさが課題となっていました。
しかし近年、ペロブスカイト層の製造にインクジェットを用いることで、大面積化の実現が進んでいます。
以前はスピンコート法による製造が主流で、均一な層の形成は難しいとされていました。
一方インクジェットによる塗布では、吐出する液滴の量や塗布速度などを制御することが可能です。それにより、大面積でも安定した均一なペロブスカイト層の形成が進んでいます。
他にもタンデム化による発電性能の向上や、さらなる低コスト化にも、インクジェット活用の期待が高まっています。
電子輸送層、正孔輸送層の製造
ペロブスカイト太陽電池の構成要素は他にも、ペロブスカイト層を挟むように塗布される、電子輸送層と正孔輸送層があります。
超音波スプレーの強み
電子輸送層・正孔輸送層の材料として、高価な貴金属などが使用されるケースがあります。
超音波スプレーは、非常に薄い塗膜の形成が可能なため、材料消費を抑えコストの低減に貢献します。
また、電子輸送層・正孔輸送層の塗布工程で噴射する材料液には、金属粒子が含まれています。
そのため金属粒子の等分散や、塗膜表面の平坦さの確保が課題になっています。
超音波スプレーは、超音波振動により液滴に含まれる金属粒子を均等に分散させます。さらに、形成した塗膜には金属粒子が石垣のように並ぶことで、表面の凹凸を防ぎます。
これらの超音波スプレーの強みは、ペロブスカイト太陽電池の発電効率向上、製造コストの抑制に貢献します。
インクジェットの強み
電子輸送層・正孔輸送層の製造におけるインクジェット技術は、吐出量をコントロールしながら均一な塗布を実現します。また、量産における製造効率の高さも含め、製造コストの低減が期待されています。
また、電子輸送層・正孔輸送層の製造にさらに適するよう、技術改良を加えたインクジェットの活用なども進んでいます。
インクジェットが持つ強みを活かしつつ、アプリケーションに応じた改良の研究開発も注目されています。
まとめ
燃料電池および太陽電池の製造は、同じ「塗布」という手法でも、製造する各要素に応じて求められる条件や課題は異なります。
また、超音波スプレーとインクジェットも、どちらも「塗布装置」ですが、異なる強みや特徴を持っています。
そのため、それぞれの研究開発の方針や方向性に応じて、超音波スプレーとインクジェット、適した技術を使い分けることが有効です。
弊社では超音波スプレーのデファクトスタンダード製品、およびインクジェット研究開発に最適な評価装置をご提供しております。
また燃料電池・太陽電池の製造、それぞれにおける活用実績もございます。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

超音波スプレー塗布装置(Sono-Tek)
超音波スプレーにおけるデファクトスタンダード。
燃料電池および太陽電池での活用実績も豊富。
幅広いラインナップと、独自技術による精度の高い塗膜形成が特長です。

インクジェット研究開発装置(ImageXpert)
インクジェット研究開発におけるデファクトスタンダード。
研究開発用に最適化された塗布装置や、インクジェットから噴射された液滴状態を観測する装置など、インクジェットの研究開発に必携のソリューションです。